ティオぺぺの女

_niraikanai_

2012年01月26日 14:42

赤い小さなポストに投函された黄色い手紙は
ティオぺぺの女からだった。

彼女とは以前働いていた銀行で席が隣同士だったこともあり、
どことなく気だるい共通の空気を共有していたこともあり、いつの間にか
会話を交わすようになっていた。

外資系だから、特に銀行の堅苦しい空気もなくやることさえやっていれば誰からも何も言われない心地いい空間だった。
彼女はプログラミングでよくわからない仕事をしていて、私も毎朝ロイターやブルームバーグの記事を読み、社内ポータルの更新作業や気むずかしいアナリストたちに言われたプレゼン資料を黙々と作成する単調な何をしているのかよくわからない仕事だった。

それでもお互い何故か頼りにしていて、飲み過ぎた朝はそのまま医務室で眠っていてもなんとか彼女がカバーしてくれたり、
彼女が昼ジャグジーに言っている間、私がカバーしたりしてとてもバランスのいい空間がそこには存在していた。

ある日、テロ騒動が起きた。911のNYテロから間もない時期で、部長が私たちの席にやってきて、小声で
「早く下に降りろ、外へ出ろ」
といって、とりあえず、鞄を持って外へ出ようとした。全社員がエレベーターに並び、
相変わらず危機感のない人種だとおもいながら、下へ降りたのを今でも覚えている。

結局愉快犯だったのか、爆発も起きず、雑踏の中からティオぺぺの女ととりあえず帰ろうかといって家へ帰った。

彼女とは職場で会話を交わす程度だった。どこか、人に触れて欲しくない部分があるのだということがわかる感じのタイプだったが、
一緒に飲みに行かないかと誘われ、いつもの店に彼女を連れて行った。

そして、最初に頼んだのがティオぺぺだった。

ビールでもスパークリングワインでもなくティオぺぺだったのだ。
自分の家のような店で、飲んでいるのにもかかわらず、ティオぺぺという選択にふいをつかれて、
しばらくバツの悪い空気をやり過ごしたことを覚えている。

あのとき私はポルフィディオを飲んでいたのだろうか。

酔いも回ってきて饒舌になったティオぺぺの女が自分の夢について話し出した。
いつかスペアリブやをやりたいと。



あの夢はまだつづいているのだろうか。




ティオぺぺの女とは長女が生まれた数日後に会ってから一度も会っていない。


あれから何度となく居を変えたが、
それでもこんな南の島にまでティオぺぺの女からの頼りが届くというのは
何かの知らせなのかもしれない。


昨日手にしたターコイズと共に。





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